
藤沢の眼
- 2008年07月04日
- 株式投資・経済ニュース全般
米国株、売りクライマックスにらみ
8日からの決算発表焦点、弱気相場入りで長期不安は残る
NYダウは昨年10月の高値から20%の下落となり、弱気相場入りとなってきたが、
短期的には売られ過ぎの反動調整的な反発が注目される領域となってきた。
現在は8日から発表が始まる4-6月期決算の悪化を織り込む形で大幅下落しているが、
過度に悲観論が蔓延しているだけに“Sell the rumor, Buy the fact”の可能性は消えていない。
とくに現在は株安不安が原油高を招き、それが株安に拍車を掛けるという経済合理性からは
行き過ぎた過熱も見られるだけに、反動逆流の潜在余地が広がっている。
決算悪化の織り込み相場、10-15%の下落と30日前後が転機に
「ジョージ・ソロス氏は現在も尋常ではない規模の投資額で米国株の空売りを継続している」――。
同氏のファンドの内情に詳しい外資系証券の関係者はこのように打ち明けながら、
さらなる恐慌相場入りのリスクに警戒感を示す。
そのソロス氏は6月21日付のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューで、
「米国経済は住宅市場の悪化が今後さらに深刻化する」とし、
「年内にリセッションから脱却するとは到底考えられない」としながら、
“スーパーバブル”の一段の崩壊に警鐘を発したばかりだ。
ソロス氏の警告通りにNYダウは昨年10 月の高値から-20%の急落、
5月の戻り高値からも-15%の下落を見せている。
テクニカルでは弱気相場入りとなり、05年からの長期上昇トレンドも割り込んできた。
目先は下値メドとしては、05年12月から06年8月にかけての値固め相場で下限となった
1万600ドルから1万1000ドルが落ち着き所として注目を集めている。
一方で6月6日から本格化した急落劇は、米系金融機関を始めとした4-6月期決算の悪化を織り込む動きでもあった。
その決算発表は8日のアルミ大手アルコアを皮切りに、
16日にメリルリンチ、17日にJPモルガン、18日にシティグループと注目企業が相次ぐ。
すでにアナリストレポートで大幅な評価損の計上が予想され、足元では悪化リスクへの織り込みが進んでいるだけに、
今後は予想の範囲内にとどまったり、予想ほど悪化しない結果に過敏に反応する買い戻し相場が想定されよう。
同じようなNYダウの減益織り込み相場は、昨夏から四半期ごとに繰り返されてきた。
まず昨年10月は11日の高値から調整が始まり、11月26日まで-10%の下落となったが、
その間の営業日は32日となっている。
続いて12月11日を高値とした下落局面は今年1月22日の安値まで持続。
下落率にして-15%、経過営業日は28日となっている。
いずれも底値形成後には、10日間から 15日間のリバウンド相場を見せている。
ひるがえって現在の下落は5月19日の高値が起点となっているが、
2日までの下落率は-15%に達し、下落期間は 32日を迎えてきた。
そろそろ価格面、日柄面で「悪材料の織り込み一巡」による自律反発が見込める地合いとなっている。
売られ過ぎの度合いを探る200日移動平均線との乖離率でも、
2日には-12%と3月9日の-11%以来の大幅な下方乖離となっている。
3月はちょうど9日の1万1691ドルという日中安値がボトムとなって5月まで反転上昇が続いており、
今回もテクニカル面では短期的な底入れ接近が注目され始めた
。
同じように日経平均株価も2日までに10日続落し、
1965年2-3月以来43年ぶりの弱さを見せている。
しかし、65年時も11日目からは短期的な反発を見せており、
日経平均も下落一服のタイミングが注目されている。
また、ソロス氏のような米国株の悲観論が蔓延する中で、
年末にかけての反転上昇を見込む声も見られている。
世界最大級の独立系資産運用グループであるブラックロックの最高投資責任者(CIO)、ロバート・ドール氏は
30日、年央のマーケットレポートを発表し、
1)世界景気の基本的な底堅さ、
2)米国の成長減速によるインフレ鎮静、
3)FRBの利下げの時間差効果――などにより、
「米国株は今年下期に上昇する」という楽観見通しを行なっている。
不安心理が株安・原油高を助長、足元では「陰の極」接近
とくに同氏は昨年9月からの7度に及んだFRBの利下げ効果に言及。
すでに利下げがタイムラグを経て融資条件の緩和につながり始めており、
「信用危機の最悪期は過ぎた」という見解を示している。
実際に利下げとドル安の累積効果は顕在化しており、米国の重要先行指標であるISM製造業景況指数は、
最新の6月に50.2と景気判断の節目である50を 5カ月ぶりに上回ってきた。
個別項目では仕入価格が79年以来で最高を更新したほか、
在庫の増加や雇用の悪化といった懸念材料が山積しているものの、
ISMの改善自体はタイムラグを経て遅行指標である雇用の底割れを回避させる。
問題は足元の投資家心理の冷え込みである。
現在は米国経済や住宅・金融のメルトダウンリスクが米国株やドルの続落を招き、
そのヘッジとして原油相場が続伸。そして原油高が米国株を一段と押し下げるという悪循環に陥っている。
本来であれば米国景気の落ち込みはエネルギー需要の減退となり、原油安要因となるはずだ。
にもかかわらず、過剰な市場センチメントの悪化が原油高・株安のスパイラルを増幅させている。
いわば「景気後退下の物価上昇」というリスクへの不安感そのものが、
原油高と株安に拍車をかけるという奇妙な自縄自縛に陥っている。
実際に米株投資家の恐怖心理度合いを示す指数として知られるシカゴ・オプション取引所の
S&P500ボラティリティー・インデックス(VIX指数)は高止まりしたままだ。
2日は原油高騰や金融不安などから米国株が大幅反落しており、
VIX指数は25.92と前日の23.65から急上昇した。
水準としては3 月26日の26.08以来の高いレベル(信用不安の高まり)となっている。
一方で昨年8月からの金融危機相場では、
信用不安が高まる局面の中で VIX指数は25から30超えへと急上昇してきた。
そして同水準まで到達したところで当面の悪材料が織り込まれ、
投資家心理面では「陰の極」となって株価は反転上昇している。
今回も25ポイント超えへの急上昇は、短期的なセリング・クライマックスへの前兆といえそうだ。
しかもVIX指数は長期トレンドラインを示す200日移動平均線が5月12日から下向きに転じている。
これは昨年6月以来のトレンド転換であり、信用不安の最悪期脱却を示すものだ。
同時に6月11日からは90日線が200日線を下抜けるという、
長期スパンでの信用不安の低下(通常のチャートではゴールデンクロスに相応)の攻防も続いている。
ちなみに前回の大幅な株安局面である02年から03年にかけても、
03年2月に90日線が200日線を下抜ける攻防が見られ、
その前後で株価は二番底のような形で急落した。
しかし、結果としてのその攻防が「陰の極」となり、株価は底入れ反転している。
現在はその03年2月以来の重要攻防を迎えており、
根深い先行き不安とセリング・クライマックスによるアク抜けとのせめぎ合いが注目されそうだ。
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